※Arch for Startupより寄稿
ズーリリー社をご存じだろうか。同社はシアトルを拠点とする e-commerceカンパニーであり、小さな子供を持つ母親世代をターゲットとして衣料、雑貨、キッチン用品、子供向け玩具等を販売している。
同社のマーケティング戦略は極めてユニークであり、flash salesをはじめとして、これまでのe-commerceカンパニーの常識を覆す手法で、アマゾン社との戦いに挑んでいる。
今回は、同社のユニークなマーケティング戦略についてお伝えする。
1.これまでの沿革
ズーリリー社は、共同創業者であるCavens氏(現CEO)とVadon氏(現会長)によって、設立されており、2010年1月に営業開始し、2013年11月にNasdaq市場に上場している。Cavens氏はマイクロソフト社、及びブルー・ナイル社(CTO)出身、Vadon氏はベイン&カンパニー社、及びブルー・ナイル社(CEO)出身である。
同社の売上は急拡大(2012年:331百万ドル、2013年:696百万ドル、2014年:1,200百万ドル)しており、アクティブ・ユーザー数は2014年末で4.8百万人(2013年末:3.1百万人、2012年末:1.6百万人)となっている。また、先日アリババ社が最大株主として同社に資本参加するという記事が報じられている。
2.マーケティング戦略
(1)基本戦略
アマゾン社の戦略が主に、あらゆる顧客に対して、最大の品揃えの商品を最短の時間で届けるのに対し、同社は、ターゲットを絞ってそのターゲットにマッチした、いわゆる限定的商品をキューレータとして提案し届けることで、顧客満足を高め、顧客を囲い込むことで収益拡大を図ろうとしている。
なお、Fast company社の記事によれば、既存顧客のリピート率は80%程とのことである。
(2)個別戦略
① flash sale
太平洋時間の毎朝6時に9,000もの新商品をピンタレスト調の写真にて、WEBページ及び携帯アプリ上に掲載する。その15分後に顧客に対して一斉にE-mailを送付し、新商品のお知らせを案内する。
これら商品は3日間しか掲載されず、その間セール品として最大75%offとの触れ込みで販売する。顧客からすれば、旬な商品が期間限定で安く発売されているというイメージがあり、それが顧客の購買をそそる仕掛けになっている。
なお、Alexa社の調べによれば、同社のサイトに訪れる顧客は1日700,000人で平均視聴時間は9分50秒とのことである。
写真1:毎朝届くズーリリー社からの商品案内のメールの例
② content management system (CMS)
顧客が商品の写真をクリックするごとに、リアルタイムでデータを蓄積し、顧客の嗜好、及びその変化を認知することでone-to-oneマーケティングを確実にしている。
これにより、顧客の年齢、子供の性別、どのようなペットを飼っているか、どのようなサイズの服を買っているか等を同社のアリゴリズムが詳細に分析し、顧客に合わせた商品の提案(メールの送付)を行っている。
同社の商品は、特に、ライフサイクルが短いため、日次での情報分析とそれに基づく商品の提案が顧客より支持される基盤となっている。
③ in-house platform
同社が発売する商品やモデルの写真については、ベンダーから提供を受けるのではなく、自ら撮影を行っている。そのため、同社の本社には、撮影スタジオと数多くの撮影器具とが備えられており、1日に何百もの商品と、十数人のモデルを撮影している。
メークアップの専門家、スタイリスト、カメラマンも独自に抱えている。撮影された写真は、カメラマンによって選別され、最終的な手直しがされた後、CMSシステムのデータベースに送付され、WEBページ及び携帯アプリ上に掲載される。
この独自の撮影システムにより、どの角度から撮影した写真が、顧客からの購買率が高いか等を分析できるようになっており、同社のCMSを精緻化する仕掛けにもなっている。
写真2:ズーリリー社の撮影スタジオの一部(引用元:Fast company)
(3)問題点
ズーリリー社は在庫を持たないビジネスモデルを構築している。これは、flash saleにより顧客の注文が完了してから、ベンダーに商品の発注を行い、発注の指示を受けてベンダーより同社の配送センターに商品が届けられ、顧客に配送されるためである。
ロジスティクスは、fulfillment management systemsで管理され、顧客からの注文に対してリアルタイムで配送指示がなされるよう設計されている。
在庫を持たないことは、同社のキュッシュ・フロー上はプラスに働く。しかし、顧客の手元まで商品が届くのに、2~3週間かかることもあり、注文から2~3日で届くアマゾン社に対して格段に遅い状態である。
3.まとめ
今回は、アマゾン社に対抗すべくユニークなマーケティング戦略をとっているズーリリー社を紹介した。実際、アマゾン社は同社に対抗すべく、Look.comを立ち上げており、2社の競争はこれからもますます激しくなるものと予想される。
このような熾烈な競争環境に対して、同社は、先日、WEBサイトの大幅刷新を行う旨のプレスリリースを行っており、これにより顧客がよりカスタマイズした商品を毎日購買できるようone-to-oneマーケティングの機能を強化する方針である。同社の動きは、今後も目が離せない程、興味深いものがある。
■この記事に関する質問やその他リサーチの依頼などはこちらのアドレスまでご連絡を!
▼関連記事
アマゾンジャパン、検索データ等を活用し食品メーカーとの共同開発を拡大
「2018年。3年後のWeb戦略」物流ビジネスで世界進出を支える オープンロジの挑戦
※「Arch for Startup」より寄稿
Arch for Startup
クラウドコンピューティング分野で世界一と言われるシアトルを拠点にクラウド関連やスタートアップ情報を発信。
●HPアドレス:
http://www.archforstartup.com/
●Facebookページ:
https://www.facebook.com/arch4startup
▽オススメ記事