今回の連載では、小売店の経営課題や小売業におけるデータサイエンティストの価値、小売業におけるビッグデータの活用を紹介してきた。これらの記事に引き続き、今回は小売店の未来像を紹介したい。
iBeaconやビッグデータの普及で近年の小売店の変化は著しいものとなっている。
そのような中、Industry website Retail Prophetの創設者であるDoug Stephensは、小売店の未来を予測しており、小売店は今後10年で、過去1,000年間よりも劇的に変化すると述べられている。
小売店で行われる単純労働に、従業員は必要なくなる
従業員への人件費を抑えるため、企業は可能な限り業務の自動化を進めるだろう。
アメリカではウォールマートがセルフチェックシステムを導入し、ヨーロッパではマクドナルドがタッチスクリーンを導入した。日本でも、セルフレジなどの形で業務の自動化が進んでおり、最近ではTSUTAYAなどの多くの店舗でセルフレジ化が見られる。
在庫管理業務においても、在庫をデータで一括管理する小売店は増えており、従業員は必要なくなっている。さらに、商品の提供をロボットに任せる試みも行われている。
例えば、Amazonが商品をドローンで提供する試みを始めた。これによって商品は当日に送付されることが一般的となり、30分単位で希望の時間に届けることができるようになる。
小売店のあらゆる業務の自動化やロボット化は一見、企業にとっても顧客にとってもポジティブな影響を与えるように思われる。しかし、マイナスの面も確実に存在する。もともと従業員が担っていた付加価値の低い単純労働の仕事が奪われてしまうため、多くの労働者が職を失ってしまうこととなる。
そして、顧客の側にもデメリットはある。小売店のサービスが自動化すると、機械の操作になれないお年寄りの顧客は、かえって不便を感じるだろう。セルフレジでの操作トラブルなどはよく見られるし、お年寄りがドローンによる商品の自動配送を積極的に使用するとは考えにくいだろう。企業は顧客のニーズを慎重に捉えながら、業務の自動化・ロボット化を進めていかなければならない。
▼参照記事
最新の技術が可能にする、未来の小売店でのショッピングとは?
引用:Forbes
続いて、Dougが予測する未来の店舗像を紹介したい。
店の前を通りかかると、その店から自分の携帯にメールが届く。それは自分の好みの洋服のセール情報である。自分の洋服の購入履歴から、コンピューターが自分の好みの洋服を選択してくれるのだ。顧客は自分のサイズに合う商品が店舗にあるか携帯から確認することもできる。
さらに店内に入ると、その洋服に合うアクセサリーの情報までもが携帯に表示される。会計はもちろんセルフレジだ。商品のバーコードをかざし携帯端末のアプリを使うだけで、自動的に自分の口座から現金が引き落とされる。さらに、商品の購入履歴をコンピューターが記憶し、携帯アプリに好みの商品が表示されやすくなる。
また、韓国とイギリスのテスコは、買い物をより簡単で素早いものにするため、新しい取り組みを試みている。地下鉄や空港などの通路の壁に商品の写真とQRコードを表示することで、二次元の店舗を設置したのだ。
顧客は欲しい商品のQRコードを携帯端末で撮影するだけで、商品を購入できる。商品は彼らが家に到着する直後のタイミングで届けられる。二次元の店舗は壁一面に表示されるので、それ自体が広告となる。そのため、小売店の店舗やオンラインストアよりも、売り上げが伸びるといったメリットがある。顧客にとっても、壁一面に表示された多くの商品を比較しながら購入することができるというメリットがある。
▼参照記事
7 Of The Best Strategic Uses Of Consumer-Facing Tech In Retail & Hospitality
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小売店は適切な価格設定をするため、今まで以上に顧客の声に耳を傾けなければならない
ドイツの生物心理学の研究では、私たちがどの程度の価格の変化で商品を購入するのかを解明しようとしている。
未来の小売店では、この研究を商品の価格設定に生かす取り組みが行われる。
例えば、一時間単位で商品の価格を複数回変更させる、ダイナミックプライシングという試みが行われるようになる。商品自体の競争力や、その日の天候などを考慮に入れて、価格設定を複数回変化させる試みが実施されるのだ。
この試みは消費者からは歓迎されるだろう。なぜなら、商品を低価格で購入できそうな印象を受けるからである。しかし、小売店が行う価格設定は困難になるだろう。というのも、消費者の望む商品の価格が変化し続けると考えられるからである。
さらに消費者間での意見交換は、今までよりもさらに活発で、リアルタイムなものになると考えられる。小売店は適切な価格設定のために、顧客の声に今まで以上に耳を傾けなければならないだろう。
自動化・ロボット化が進む小売店の現場で人間が果たすべき価値とは?
引用:jestais
これまで見てきたように小売店では今後、今まで以上に業務の自動化・ロボット化やビッグデータの活用が進んでいく。
レジ打ちなどの単純業務や、在庫確認、顧客データ収集などの業務は今後機械に代替されていってしまう。まるで従業員の必要性はなくなり、ロボットやビッグデータに小売店が支配されているかのようだ。
しかし、必ずしも小売店のすべての業務が機械に取って代わられてしまうわけではない。たしかに、ただ単に単純作業をするだけでは人間に勝ち目はない。
そんな中で小売店の従業員に求められているのは、機械には代替できない、人間にしかできない価値を生んでいくことだろう。今日、店舗で取得できるデータの種類や量が莫大に増えているため、それらのデータを分析・活用できるデータサイエンティストの存在が重要になっている。
例えば、ロールスロイスは飛行機エンジンのデータを分析して、メンテナンスがいつ必要かを確認しており、化粧品会社のロレアルは、タイプの違う肌に複数の化粧品を使った際の効果をデータサイエンティストチームが研究している。単純労働の多くが機械に代替されてしまう中でも、やはり人間にしか生むことのできない付加価値は存在している。
労働の効率化のために機械に単純労働を任せると同時に、人間にしかできない、付加価値の高い労働をいか行うかが今後重要となってくる。
▼参照
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