引用:kroger.com
Kroger社をご存知だろうか。同社は全米でスーパーマーケットを中心にチェーン展開する小売企業である。
米国における近年の小売業界は、絶え間ない価格競争、店舗規模拡大競争、オンライン業界との競争、異業種企業の参入など、熾烈な競争環境に晒されており、顧客の奪い合いが起きつつある状況ともいえる。そのような中、同社は顧客満足の徹底にこだわることで、顧客リテンションを向上させ、激しい競争に打ち勝とうとしている。
今回はそのような同社のユニークなマーケティング戦略を取り上げたい。
Kroger社の概要
Kroger社は、1883年に創業され、2014年末時点において、ウォールマートに次いで第2位の規模を誇る小売チェーンである。2014年の売上高は1,030億ドルであり、全米で3,730店を展開している。我々Arch-startupが本拠を置くシアトルでチェーン展開しているSafewayやQFCも同社傘下の小売企業である。
<参考>2014年全米小売業界ランキング
企業名 | 売上高 | 店舗数 |
Wal-Mart Stores | 3,436億ドル | 5,109店 |
The Kroger Co | 1,030億ドル | 3,730店 |
Costco | 797億ドル | 464店 |
The Home Depot | 742億ドル | 1,965店 |
Walgreen | 727億ドル | 8,157店 |
(引用元:https://nrf.com/2015/top100-table)
顧客満足向上に資するマーケティング戦略
同社は顧客満足向上策として、買い物の利便性を高めることに主眼を置いている。その代表例として、テクノロジーの導入によるレジ前での待ち時間の解消と、オムニチャネルの強化があげられる。以下、その詳細を説明したい。
テクノロジー導入によるレジ前での待ち時間の解消
店舗で買い物をする顧客が不満に思うことの一つにレジ前での待ち時間が長いということがある。この不満を解消するために同社はQueVision及びScan Buy Goというシステムを導入した。
QueVision
写真1(引用元:informationweek.com)
店舗の入り口とレジに赤外線センサーを取り付け、店舗に出入りする顧客とレジ前で並んでいる顧客の数をセンサーで読み取り、レジ前での平均待ち時間を計算する。そして、レジ待ち人数を減らすために、店舗スタッフが15分後、及び30分後にいくつレジを開けるべきか、即座に分かるように店舗内のスクリーンで表示する。(写真1)。
本取組みは2,300以上の店舗に導入されているが、レジ前での待ち時間がこれまでの平均4分から30秒に短縮したとのことである。更に、これまでレジで顧客待ちしていたスタッフを、別の仕事に従事させることで店舗内の労働生産性を向上させる効果もあったとのことである。
Scan Buy Go
現在は、一部の店舗でのみ導入している仕組みであるが、ハンディータイプのバーコード読み取り器で、購入する商品のバーコードを読み取り(写真2参照)、レジ前に設置されたスクリーンに当該読み取り器をかざす(写真3参照)だけで、会計が済んでしまうシステムである。
写真2(引用元:youtube.com)
写真3(引用元:youtube.com)
なお、別の取組みとして、購買した商品を高速ベルトコンベヤベルトに流すだけで会計が済んでしまうレジを導入している店舗もある(写真4参照)。
写真4(引用元:youtube.com)
これらの取組みの導入がレジ前での待ち時間短縮につながっている。
オムニチャネルの強化
ドライブスルー型店舗
写真5(引用元:kroger.com)
Ohio州Lebanonの店舗では、オンラインで商品を注文し、ドライブスルー方式で、店舗で商品を受け取れる仕組みを導入している。顧客は、まずオンラインストアで商品を注文すると同時に、商品受取り店舗と時間を指定する。注文を受けた店舗スタッフは、注文された商品をピックアップし、顧客が到着するまで、適切な温度下で商品を管理しておき、顧客が到着したら、顧客の車に商品を運搬する。これにより、顧客は、車から降りることなく商品の受取りと支払いを行うことができる。
オーガニック食品の宅配
写真6(引用元:livenaturally.kingsoopers.com)
同社は、2014年にオンラインで健康食品の販売を行っているVitacost.comを買収した。同社は、この会社が保有するship-to-homeシステムを利用することで36,000もの有機食品を販売するWEBサイトKing Soopersを立ち上げ、Denver市で宅配を行っている。これについて、同社group VPである Kevin Dougherty氏は「この新しいウェブサイトによって、顧客は、店舗では購買できない何千もの健康食品、ビタミン、ミネラル、サプリメントを家にいながら購買できることになり、顧客の買い物体験を比較的に高めることにつながっている」と述べている。
顧客の持つ不満を分析し、顧客の利便性を向上させる、Kroger社のマーケティング戦略
今回は、全米でチェーン展開するKroger社のユニークなマーケティング戦略について説明した。小売業における熾烈な競争下において、顧客のリテンションを高めるためには、単純な規模拡大と他社の取組みを模倣するだけでは、勝ち残ってはいけない状況ともいえる。
そのような中、顧客の持つ不満を分析し、レジ待ち時間を解消するとともに、ドライブスルー型店舗の開発等、顧客の利便性を向上させる取組みを行っている同社の戦略は、非常に有効に思える。競合他社と何をもって差別化を図るのか、小売業にとっては難しい課題ではあるが、同社の取組みは日本の小売業にとっても、非常に参考になると考えられる。
我々、Arch-startupはこれまで、様々な米国のリテール企業のマーケティング戦略について紹介してきたが、今後も同社のようなユニークな取組みに焦点をあてて記事を紹介していきたいと考える。
Arch for Startup
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