テクノプレナーという言葉をご存知だろうか。日本ではまだあまり馴染みがないが、人口爆発や気候変動、エネルギー資源不足など地球規模の課題が山積みの世界の救世主となるべき人材をさす言葉だ。本稿では、21世紀に求められる人材としてテクノプレナーを紹介する。
高度な専門知識を持ちながら新しい価値を創出するテクノプレナー
テクノプレナー(Technopreneur)とは、ある分野における高度な専門知識を活かしながら、革新的なビジネスを創出する人材をさす。シンガポールやマレーシアなど、世界から高度技術人材を集める国々で、よく使われている言葉だ。聞きなれないこの言葉は、「テクノロジスト(Technologist)」と「アントレプレナーシップ(Entrepreneur)」という2つの要素から構成されている。以下ではそれぞれの要素について説明する。
要素1:ある分野における高度な専門知識を実用するテクノロジスト(Technologist)
テクノロジストについては、かの有名なピーター・ドラッカーは、著書『テクノロジストの条件』の中で以下のように述べている。
「きわめて多くの知識労働者が知識労働と肉体労働の両方を行う。そのような人たちをテクノロジストと呼ぶ。」
その語感から、テクノロジストというとエンジニアなど一部の人に絞られるように感じるが、必ずしもそうではない。このことを理解するには、テクノロジー(技術)とサイエンス(科学)を明確に区別する必要がある。
広辞苑によれば、それぞれ以下のように定義されている。
テクノロジー(技術)とは、
「科学を実地に応用して自然の事物を改変・加工し、人間生活に利用するわざ。」
サイエンス(科学)とは、
「①(広義)世界と現象の一部を対象領域とする、経験的に論証できる系統的な合理的認識。②(狭義)自然科学」
つまり、広義の意味でサイエンスを捉えるならば、テクノロジストとは、ある特定分野における専門知識を、実社会に活用する人ということができる。とすれば、必ずしもエンジニアリングの知識だけをさすのではなく、法学の専門知識を活かして法廷で弁論する弁護士や、心理学を専門として人の深層心理を引き出すセラピストのような人々についても、テクノロジストと呼ぶことができる。
要素2:機会を見極め、革新的なビジネスを創出するアントレプレナーシップ(Entrepreneurship)
アントレプレナーシップについても、ピーター・ドラッカーが1985年に『イノベーションと企業化精神』で、以下のように定義している。
「アントレプレナーシップとは、変化のなかに機会を発見し、事業を成功させる行動体系のこと」
こちらはテクノロジストよりもう少しわかりやすいのではないだろうか。刻々と変化する市場の中で、市場の流れを読み、全く新しいサービスやプロダクト、ビジネスモデルを創出することによって、新しい価値を生み出す行動姿勢が、アントレプレナーシップである。
世界にイノベーションを起こしてきたテクノプレナー達
以上で述べてきたように、テクノロジストとアントレプレナーシップ、この2つを持ち合わせる人材が、テクノプレナーであった。では、これまでにどのようなテクノプレナーが存在したのだろうか。具体的な人物をあげてみよう。
スティーブ・ジョブズ
引用:iamwire
逝去後もなお、世界中のファンによって彼の発言や行動がリスペクトされているスティーブジョブズ。彼はその生涯の中で、数々の革新的なプロダクトを生み出してきた。例えば、iPhoneもその1つだ。あの手のひらに収まる小さなデバイスで、従来の連絡手段だけでなく、カメラやオーディオを始め様々な機能を兼ね備え、いわば小型コンピューターの役割を果たしている。iPhoneの登場によって、1人1台コンピューターをもつ時代が訪れ、市場だけでなく人々のライフスタイルにも大きく変えた。
▼参照
イーロン・マスク
引用:LIVE JOURNAL
今や、時の人となっているイーロン・マスクも、テクノプレナーの1人と呼ぶにふさわしいだろう。Paypalのクレジットカード決済やテスラモーターズの電気自動車、スペースXの民間宇宙船開発など、彼が生み出してきたビジネスはいずれも、金融・自動車・宇宙開発と各産業にインパクトをもたらしてきた。
▼参照
ASCII.jp:イーロン・マスク:テスラを導いた天才経営者の過去
課題が山積みの21世紀だからこそ求められる人材、テクノプレナー
引用:pixaday
なぜ、21世紀にテクノプレナーが必要なのだろうか。
地球規模に目を向けてみると、人口爆発や気候変動、エネルギー資源不足など、多くの問題で溢れかえっている。国連が挙げている地球規模の問題だけでも、30のテーマが挙げられている。
引用:JCCCA
そして、こうした地球規模の問題解決には、これまでの常識を覆すようなイノベーションが起きるほか方法がないように思われる。例えば、気候変動の課題を例にとってみよう。発展途上国の経済発展が進むにつれ、世界中の二酸化炭素排出量も増加している。そして、この課題に対処するべく、COPのような国際会議も開かれ、多くの議論が交わされてきた。しかし、今急成長している発展途上国の多くは、かつて先進国がそうであったように自国の経済発展を理由に、条約には批准していない。結果、二酸化炭素の削減に務める一方で、それを上回るペースで排出量が増えており、本質的な課題は解決していない。そんな状態が30年近く続いている。
このように、私たちの生活の存続が危ぶまれるような課題が溢れる時代だからこそ、議論の前提となるようなこれまでの常識を覆すイノベーションが求められるのである。例えば、二酸化炭素を人口で酸素に変換することができるような装置が生まれたら、上記の気候変動に関する問題の大部分が解消されるだろう。そして、こうしたイノベーションを起こすのに求められるのは、高度な専門知識を活用しながら、社会に全く新しい価値を生み出すことができる「テクノプレナー」だ。
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