今月26日から28日までの3日間開催された、コンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”において、技術の面からゲーム開発者を称える“CEDEC AWARDS 2015”各部門の最優秀賞が発表された。その中で、GPSを用いてプレイヤーの位置情報を取得し、世界規模の陣取りゲームを実現した「Ingress」(以下イングレス)がネットワーク部門で見事受賞を果たした。
イングレスはGoogleの社内スタートアップ、NianticLabsが開発した位置情報を活用した陣取りゲームで、現在全世界で800万人のユーザーがいると言われている。
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位置情報ゲームを活用したO2O施策で地域振興を目指す
最近位置情報ゲームをO2O施策に活用する事例が増えてきている。位置情報ゲームは、プレイヤーが実際に移動することでゲームに参加できるため、ゲームの中だけではなく、地域やプレイヤー同士のリアルな交流が生まれる点で特徴的だ。また、位置情報ゲームはプレイヤーの位置情報を取得するため、O2Oのプロモーション等とタイアップしやすい。
冒頭で紹介したイングレスも、各企業や自治体とタイアップし、O2Oの取り組みを行っている。そこで今回はイングレスを活用したO2O施策に迫りたい。
企業とイングレスのタイアップ企画
引用:Ingress
JTBはイングレスのイベントに合わせてパッケージツアーを企画
株式会社JTB(以下JTB)は今年3月に京都で行われたイングレスのイベントに合わせて、1泊2日のツアーを企画した。イングレスのイベントは人気が高く、京都で行われたこの大会は5000人を動員する大規模なものとなった。
イングレスは、緑と青の陣営に分かれて陣地を奪い合うゲームである。このタイアップ企画では、青陣営から30人、緑陣営から26人を募集する形をとっており、更には所属する陣営によって、宿泊するホテルが異なるなどの工夫がなされている。
また、JTBは、6月に仙台で行われたイングレスのイベントにおいても、イングレス関連グッズがついてくるイングレス公式の宿泊プランを提供した。
ローソンが各店舗をポータルに設定
株式会社ローソン(以下ローソン)は、昨年12月にイングレスと正式に提携を結び、全国のローソンがゲーム上でポータルとして表示されるようになった。ゲームの中でローソンがポータルとして登場することで、イングレスユーザーに対してローソンの場所を知ってもらうことができる。
また、ポータルとなったローソンをハックするためには、ローソン店舗から一定距離にいなくてはならない。従って、イングレスプレイヤーならば、コンビニを利用する用事があれば、他社のコンビニよりもローソンを利用する可能性が高くなる。
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仙台パルコはイングレス公式イベントにあわせてイベントを企画
仙台パルコは、今年6月に仙台で行われたイングレスのイベントに合わせて、イングレスを全面に押し出した垂れ幕を掲げたり、仙台パルコ内の所定のレストランで食事をした後に、イングレスプレイヤーであることを示すことでゲーム内アイテムがもらえるなどの企画を行った。また、仙台パルコの特設Webページでは、仙台パルコ近辺のポータルを掲載し、イングレスユーザーが仙台市内観光を楽しみながらゲームを進められるよう促した。これらの取り組みは、ソーシャルメディアを中心に広く拡散され、話題となった。
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地方の各自治体がイングレスを用いた地域振興施策に着手
引用:観光情報サイト「ここはヨコスカ」 イングレス特設サイト
冒頭で述べたように、位置情報ゲームは、プレイヤーが実際に足を動かさなければゲームを進めることができない。そして、イングレスの場合、日本全国にプレイヤーが獲得を目指すポータルが散在しており、コアなプレイヤーは地方のポータル獲得を目指して非常に長い距離を移動することもある。
そのため、自治体側からすれば、自地域にイングレスのポータルを多く設置することで、イングレスユーザーを招き入れることができる。以下では各自治体のイングレス活用事例の中で、特に積極的に取り組んでいる岩手県と横須賀市の事例を紹介する。
岩手県の事例
岩手県は、自治体を上げて先進的にイングレスを活用した地方振興に乗り出している。昨年11月には、岩手県庁が主導して、約30人のプレイヤーで同時に岩手市内の各ランドマークをポータル申請するイベントを企画した。
また、岩手県はイングレスを活用した地域振興を考える組織として、岩手県庁ゲームノミクス研究会を発足させ、今後も継続的にイングレスを活用した地域振興に力を入れていくとしている。
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横須賀市の事例
横須賀市は、昨年12月から今年2月までの間、東京湾に浮かぶ無人島「猿島」行きのフェリーの運賃を、イングレスプレイヤーに限って半額にするキャンペーンを行った。その結果、猿島を訪れた人は前年同時期よりも増加し、約200人がイングレス割を利用したとのことである。猿島のように、閑散期には客足が遠のいてしまう観光地も、イングレスとタイアップすることで集客が見込めるという事例である。
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位置情報ゲームが企業や自治体にもたらすもの
前述のように、イングレスのような位置情報ゲームは、プレイヤーが実際に足を動かすことが前提とされており、集客の用途としてのポテンシャルは高い。
また、イングレスプレイヤーは、ゲームの特性上、外に出て歩きまわることを苦にしないという属性を持っていると言えるため、企業のタイアップ企画で、来店特典としてノベルティを配るなどの、店舗に足を運んでもらうことを目的とした施策では、比較的効果を生みやすいといえる。
さらには、ゲームを有利に進めるために遠方に足を運ぶこともあるため、旅行会社とのタイアップとの相性もよい。プレイヤーにゲームを楽しんでもらいながら、日本各地方に足を運んでもらうような企画は、地域振興の観点から見ても価値が高い。今後もイングレスを活用する企業や自治体が増加してくることが予想される。今後の動きにも要注目である。
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