スポーツは古代エジプト時代には既にあったとされ、何千年を経た現代社会でも広く親しまれている。公益財団法人 日本生産性本部によると、スポーツ業界の市場規模は国内だけでも3 兆 9,150 億円(2012年)にのぼる。
そんなスポーツ業界では、近年、テクノロジーとの融合が多く見られるようになった。今回はスポーツ業界が直面しているいくつかの課題を解決するテクノロジーをご紹介する。
▼参照
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/sports/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/12/08/1353860_4.pdf
スポーツ業界に立ち塞がる壁
スポーツは不思議なほどに、当事者や観戦者だけではなく、国全体をも熱狂させる。2002年、日韓ワールドカップ、日本対ロシア戦では、日本国内で66.1%という驚異的な視聴率をたたきだした。
しかし、スポーツにはまだまだ課題も多く残っている。
その1つが人間の審判員による誤審だ。サッカーでは、国の威信をかけたワールドカップであっても誤審が絶えない。
引用:http://number.bunshun.jp/articles/-/141870
上の画像は通称「神の手」と呼ばれる、アルゼンチン代表のディエゴ・マラドーナが、1986年ワールドカップ・メキシコ大会準々決勝のイングランド戦で決めたゴールのことである。実際は明らかに手を触れていたにもかかわらず判定はゴールだった。
また、映像技術などの目覚ましい技術革新によって、スタジアムにいかずとも、よりリアルで臨場感のあるスポーツ観戦を、いつ、どこでも楽しめるようになった。それに比べ、スタジアムにおける観戦スタイルは数十年間変化がない。
ビッグデータという言葉が流行っているが、スポーツ業界においては、顧客のデータを分析し、それぞれの顧客に合ったサービスを提供するような取り組みはまだ少ない。
例えば、チケット販売の際に、既に収集された顧客データを解析し、顧客がイチローのファンだと分かれば、イチローのファンばかりを集めたグループ席を用意し、試合後、イチローにサインボールをそのスペースに投げてもらうといった演出が可能になる。
加えて、技術の発達で、年々、高画質、高音質の映像をテレビで楽しめるようになったが、まだ改善の余地は多く残されている。スポーツのテレビ観戦の特徴として、決まった場所から試合を観戦するスタジアム観戦に比べ、多数カメラを用い様々な角度から試合を観戦することができる。
しかし、背景の音声ではスタジアム観戦と同様、ひたすら歓声が鳴り響いているのが一般的だ。テレビ観戦では今後、棒高跳びの棒がしなる音、バットにボールが当たった時の音、グローブでキャッチした時の音など、競技音を聞ける仕組みが必要になるだろう。
▼参考
http://www.videor.co.jp/data/ratedata/junre/11soccor.htm
人間の限界を超えたテクノロジー
引用:http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201207/12-093/
Hawk-Eye Innovations Inc.(以下、ホークアイ)は2011年にSonyが買収したイギリスの技術会社だ。「ホークアイ」は、サッカーなどの競技場内で複数設置されたカメラで、ボールの軌道を解析する技術を有している。
2012年に、同社のゴール判定技術が、FIFA(国際サッカー連盟)に正式採用された。これにより、2012年まで幾度となく議論されてきたゴールシーンでの誤審を限りなく0に近づけられるようになった。
「ホークアイ」では、サッカーボールがゴールラインを通過して1秒以内に、暗号化された情報を審判員の腕輪に伝達する。これにより、審判員が判断できないゴールライン付近での情報を得ることができるのである。さらに「ホークアイ」では映像でのリプレイも提供しており、システムによる判定の妥当性についてチェックが行える。
▼参考
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201207/12-093/
Beacon活用でビールの売り上げが4倍に
引用:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.bamnetworks.mobile.android.ballpark
NBA(北米のプロバスケットボールリーグ)やNFL(プロアメリカンフットボールリーグ)では近年、スタジアムにO2O技術を導入するケースが増えてきている。その主な目的は、スタジアムに足を運んでくれた観客のニーズに応え、気持ちよく彼らに消費を促すためである。
例えば、NBAに所属するゴールデンステート・ウォリアーズ(以下GSW)の本拠地であるオラクルアリーナでは、観客のエンゲージメント(愛着心、思入れ)を向上させるために、専用のBeacon(ビーコン)アプリを導入した。
試合の当日、会場に入ると、予めダウンロードしたGSWのアプリからBeaconでウェルカムメッセージが届く。次に、会場で提供される無料Wifiを使用しFacebookにログインすると、自分の席までの案内図を見ることができる。また、試合が開始すると、GSW各選手の平均得点や過去のゲームのビデオを見ながら観戦できるなど、顧客体験の向上を目指している。
さらにビデオの閲覧数やチケットの購入履歴といったビッグデータは、誰がどの選手のファンなのかといった分析を助けている。今後もBeaconを利用するスタジアムは増加するだろう。
▼参考
http://diamond.jp/articles/-/64435?page=4
臨場感のある音声を視聴者に届ける
引用:http://www.ntt.co.jp/news2015/1501/150128a.html
日本電信電話株式会社(以下NTT)は今年1月、スポーツの競技音をクリアに抽出する音声処理ソフトウェア技術「ターゲットマイク技術」をNHKと共同で開発したことを発表した。今まで、画像、映像技術の進歩によって視聴者は年々、より高画質な映像を観られるようになってきた。
しかし、音声技術に関しては映像技術ほどの進歩がなく、ガンマイク等で集音された音は観客の歓声に埋もれ、ユーザーが聞きたい臨場感あふれる競技音を届けることが困難だった。
NTTは、従来の技術では抽出が困難だった「サッカーのシュート音」、「相撲の力士がぶつかり合う音、行司の声」、「ゴルフのショット音、落下音」、「野球の打撃音」といった競技音を抽出し、さらにそれらを強調することで、臨場感のある音をユーザーに届けられるようにした。NTTは「ターゲットマイク技術」の一年以内の実用化を目指している。
▼参考
http://www.ntt.co.jp/news2015/1501/150128a.html
まとめ
今後、スポーツ業界ではますますテクノロジーの導入が進むだろう。特に「ホークアイ」のように、カメラを使った技術は、数年以内に大きな動きが見られそうだ。
例えば、サッカーの試合で、それぞれの選手の動きを追跡し、移動速度、移動距離、移動範囲などを測定する技術が開発中である。
この技術は後々、スカウトの仕事をサポートし、今まで埋もれていたスター選手を発掘するかもしれない。これからも、スポーツとテクノロジーの共存に期待が高まる。
▼参考
http://www.sponichi.co.jp/soccer/news/2015/03/10/kiji/K20150310009951510.html
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