近年、街の至る所でデジタルサイネージを目にするようになった。電子看板と訳される通り、主に広告や案内の用途に使用されている。
引用:http://www.pacificwave.co.uk/
例えば、都営大江戸線六本木駅上下線ホーム上の柱12本には、各2面、計24面の65インチ縦型のデジタルサイネージが設置されている。これらはNECの「情報・コンテンツ配信クラウドサービス」を活用することで、広告を配信している。デジタルサイネージは、ディスプレイ価格の下落によって導入コストが低くなってきている点、従来のポスター広告と違い、張り替えの手間がない点、表示する広告を切り替えられるため、収益機会が高い点で優れており、近年市場を拡大してきている。
株式会社富士キメラ総研の調査によると 、2020年までに国内デジタルサイネージ全体の市場は2520億円まで成長する見込みである。
そこで今回は、デジタルサイネージの海外最新導入事例を紹介し、今後デジタルサイネージ市場がどう発展していくかを考察していきたい。
ハロウィンの夜にあなたの顔がモンスターに変身
Pepsi Max UKは、先日のハロウィンで、London cinemaのトイレの鏡を、顔追跡技術を搭載したデジタルサイネージに置き換え、鏡を覗いた人の顔をモンスターに変身させてしまう”いたずら”を実施した様子をYoutubeにアップしている。百聞は一見に如かずである。まずは以下の動画をご覧頂きたい。
いかがだっただろう。もし自分がこの”いたずら”を体験したならば、腰を抜かしてしまうに違いない。この技術を取り入れれば、お化け屋敷のクオリティーが格段に上がるのは間違いないが、このいたずらで注目したいのは、顔追跡技術である。このデジタルサイネージは、対象の顔の動きを細かく追跡することで、動きに合わせて表示する画像を変更している。この技術を街中のデジタルサイネージ広告に応用できれば、広告への注視率を格段に高めることも可能であろう。
例えば、駅に大型のデジタルサイネージスクリーンを設置し、”通行人が広告の一部となる広告”を提案できれば、従来の一方的なメッセージ発信ではなく、広告と視聴者間に、双方向的なコミュニケーションが生まれ、視聴者の関心を高めることが出来るであろう。
商品棚にデジタルサイネージ広告を設置、顧客を購買に誘導
引用:Shopper conversion through retail shelf media
Dot2Dot Communications Inc.は、陳列棚付近にデジタルサイネージを設置するソリューションを提供しているカナダの企業である。商品棚にデジタルサイネージ広告を設置し、各商品の詳細情報やプロモーション映像を流すことで、顧客に購買を促す。メーカーは商品のコンセプトを正確に顧客へと届けることが出来、顧客との間の”摩擦”を最小化することが出来る。商品棚に設置されたデジタルサイネージ広告を目にするのは、主に購入を検討している顧客である。従って、テレビCMのように、無作為の視聴者にメッセージを送るよりも、格段に効果が高いのだ。また、紙製のPOP広告と違い、動画を流すことが出来るため、顧客の注目を集めやすい。さらに技術の発展が進めば、今後は性別・年齢などの属性情報に応じた広告配信が可能となるPOP広告も登場するだろう。
タッチパネル式デジタルサイネージで、試着した様子をSNSでシェア!
引用:London optician looks into social digital signage
ロンドンの眼鏡販売店Kite GBは、店内にタッチパネル式のデジタルサイネージを設置。顧客は眼鏡を試着した様子を、デバイスが搭載したWebカメラで撮影する。そしてその写真をその場でSNSにシェアし、友人からフィードバックを貰うことが可能になる。服や小物を購入する際、第三者に意見を貰うことで顧客は購入に踏み切りやすくなるのだ。ある研究では、親しい人間と一緒に買い物をすると、衝動買いをする確立が高くなるという結果が出ている。この研究結果に基づいて推論すると、SNSを通じて親しい人間のフィードバックを貰うことで、研究結果のような、”親しい人間と購買をする”のと同じような効果が得られ、購入の後押しをすることが期待できる。
また、SNSシェアを通して、多くのユーザーの目にとまるため、広告としての役割も果たし、店舗の知名度を向上させることも可能である。商品が自分に合うかどうかを誰かに判断してもらいたいという顧客のニーズに着目した、アパレルとデジタルサイネージの面白いコラボ事例である。
▼参照元
Luo, Xueming, and 永井猛. “同行者が衝動買いに与える影響.” インストアマーケティングに関する欧米の研究論文集 4 (2007): 49-58.
効果測定システムの確立が今後の課題
冒頭でも述べた株式会社富士キメラ総研の調査によると、2020年までにデジタルサイネージ市場は2500億円を突破し、そのうち1600億円をデジタルサイネージ広告が占めると予測されている。この調子で市場規模が拡大し続ければ、近い将来、街中のデジタルサイネージによる広告は、テレビCMに次ぐ広告メディアとなるかもしれない。その場合、重要になってくるのは効果測定であろう。テレビCMには視聴率という効果測定基準が確立されているが、デジタルサイネージの街頭広告が、どれだけの人の元へ届いたかを測定するサービスは非常に少ない。国内ではエヌ・ティ・ティ アイティ株式会社の「ひかりサイネージMetrics2」 があるが、まだ確立されているとは言い難い。しかし、もしデジタルサイネージ広告の効果測定システムが標準化され、普及すれば、広告主は費用対効果の算出ができ、広告への投資を最適化できる。そうすれば、街中のデジタルサイネージ広告がプロモーションの主流となる日が来るかもしれない。今後の展開に注目である。
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