※Arch for Startupより寄稿
Staplesという会社はご存知だろうか。アメリカを中心にオフィス用品を扱う小売店を展開しており、創業29年にして全体の売り上げが2014年で224億ドルと業界で世界最大の売り上げを誇っている。
しかし近年はAmazonを初めとしたオンラインリテールにシェアを奪われており、売り上げが伸び悩んでいる。2014年の売り上げは前年度231億ドルから2.7%減少した。Staplesがこの危機的状況で取った戦略は収益構造の見直しだった。
具体的には、多額の投資を行うとともに、2014年だけで実店舗のうち169店舗を閉めるコストカットを図った。
近年のStaplesの収益を見ると、オンラインの売上は2007年の56億ドルから2013年には104億ドルと増加した。また、全体の収益におけるオンラインの売上の比率は2007年に29%だったのに対し、2013年には43%となっている。
今回は前回の記事(ベストバイ)に続き、eコマースに脅かされる小売店の再起を狙ったStaplesの戦略を紹介する。
実店舗とeコマースの融合『Buy Online and Pick Up In Store』
2014年9月にKPMGによって発表されたレポートによると、アメリカの大手小売店の約70%は店舗内体験とウェブサイトやSNSをリンクさせるオムニチャネル戦略を既に実施していると回答した。
Staplesでも利用できるBOPIS(Buy Online Pickup In Store)はオムニチャネル戦略の代表的ともいえるサービスで、ネットで注文した商品を近くの店舗で受け取ることができるといったものだ。他社と差別化が見られる具体的な特徴として以下が挙げられる。
- 一番近い1店舗を指定すると、付近の3店舗の選ばれた商品の在庫が自動的に表示される。
- 注文から二時間以内に受け取り可能で、5日間取り置きができる。
- 代理人の名前・電話番号を店舗に伝え、引渡し準備完了のメールを転送することで代理人による受け取りも可能。
- 近くの店舗に欲しい商品が無かった場合でも、商品を入荷させ店舗で無料で受け取ることができる。
Staplesはこのサービスのローンチとともに、iPad用アプリ、クレジットカードを用いたオンラインスピード決済を導入した。
2013年第4四半期決算発表では、全体の売上こそ59.6億ドルと2013年の同時期から2.5%の減少となったが、オンラインの売上は9%の増加を見せた。2014年第3四半期においてBuy Online Pickup In Storeサービスはオンラインの注文の約10%を占めており、客足を店舗に向ける大きな柱となりそうだ。
『未来の小売店』オムニチャネルストア
オフラインでの売上の減少が著しいStaplesは、冒頭で触れたとおり店舗数を縮小することでコストカットを図った。
しかしそれだけではなく、“Omnichannel Store(オムニチャネルストア)”と名づけた新しい形態の店舗を導入し、実店舗を有効活用する試みを明らかにした。このオムニチャネルストアは従来の店舗の半分ほどの敷地面積で、徹底したコストカット戦略が伺える。
このオムニチャネルストアが来店客に提供するサービスは:
- ビジネスラウンジ:
Staplesのオンライン売上の80%以上は法人が相手と言われている。それに伴い中小企業へオフィスサプライにおけるコンサルティングや、ミーティングなどが行える場所としてこのビジネスラウンジが設けられた。
ここでは法人顧客のオフィスサプライ費用に関するコンサルティングだけではなく、消費者個人も相談ができるという。
- 店舗内キオスク:
このオムニチャネルストアでは店舗内キオスクが導入され、来店客は商品を選択、購入、配達先住所の指定などをキオスクを通じて行うことができる。また、キオスク限定のクーポンを発行するなどをして集客を図っているようだ。
Staplesが店舗内キオスクを導入した背景には、コストカット戦略という背景がある。2013年の初めStaplesが提供する商品の数は約10万種類あったが、2014年には約50万種類に激増した。取り扱う商品の増加、それに加えてオフラインでの売上減少ゆえ拡大できない実店舗という困難をから救ったのがこの店舗内キオスクだった。
このオムニチャネルストアは2013年のうちに45店舗に拡大された。この店舗のローンチに際してStaplesの北米の店舗・オンラインを統括するDemos Parneros氏は、オムニチャネルストアはその縮小された敷地にも関わらず通常の店舗の95%の売上が予想されるとした上で、『オンラインリテールとStaplesを差別化する要因は、実際に店舗に来て商品を触ることができるということであり、そこに小売店とオンラインの相互作用が働く』と説明した。
店舗見学/インタビュー
今回の記事作成に際して、実際にシアトルにあるStaplesの一店舗に伺った。
今回伺った店舗(1541 15th Ave WestSeattle, WA 98119)はオムニチャネルストアではなく、従来の大型な店舗だ。
店舗に入って最初に目に入ったのが、この店舗内キオスクだ。店舗入口の正面に置いてあり、非常に目立つ。(思ったより小さかった。)
上記の写真がキオスクのホーム画面だ。右上には『商品をみる』『インク・トナーを探す』『クーポン』『今週のセール商品』がある。
これが『今週のセール商品』のページ。いわゆるチラシのようだ。
店舗を散策すると、オフィス用品が充実しているだけでなく、食料品・家具・PCやその周辺機器が揃えられていた。『日本の家電量販店に似ている』というのが率直な感想だ。
ここでコピーとプリントのサービスを受けることができる。書類のコピーはもちろん、名刺・チラシ・パンフレット・バッグ・ボトルオープナーまで自分の好きなデザインにカスタマイズすることができる。
『easytech』
パソコンのセットアップを始めとした電子製品に関する相談窓口。窓口だけでなく、エンジニアを派遣するサービス、オンライン環境が整っていればリモートで対応するサービスなどがある。
写真を撮っていると声をかけられ、たまたまストアマネージャーだったということで10分程度の簡単なインタビューをさせてもらえることになった。
Q1. Staplesではここ近年で収益構造の変化が見られるが、この店舗ではどのような売上がどのような変化を見せているか。
―具体的な数字は全く答えることが出来ないが、概ねStaples全体の動きと同じと考えていい。
Q2. 全体の収益における法人顧客の比率が大きかったことが個人的には驚きだった。この店舗に来店する顧客は、個人的な消費者と法人とどのような割合か。
―もちろん法人も来店するが、個人的な消費者の方が多い。これは店舗のロケーションに大きく左右され、Redmond(シアトルから少し離れた場所にある)の店舗では圧倒的に法人が多いと聞いている。
Q3. 近年Staplesはオムニチャネルに力を入れており、店舗内キオスクの設置はその戦略の一つだと伺っている。店舗内キオスクを導入して何か違いは感じたか。
―実は当初考えていたよりもあまり利用されていないのが現状。もちろん店舗で在庫を抱えていない多くの商品を閲覧・購入・配達できることは大きな利点である。しかし、個人的な消費者の多くは『即日に商品が欲しい』という理由で来店しており、個人的な消費者が多いこの店舗のキオスクの存在は顧客にとってあまり大きくないかもしれない。
Q4. 今回記事を作成するにあたって、Amazonなどeコマースの台頭によってStaplesは変革を迫られたという印象があった。今後Amazonと対抗していく上でStaplesは何を武器にしていくと思うか。
―店舗スタッフが大きな武器になる。easytechでは顧客のトラブルに対応するためにスタッフを派遣しているが、そのようなサービスは他のeコマースリテールには出来ないことだ。
この質問の後、カウンターには列ができてしまいインタビューを終えることになった。店内で商品を探す顧客よりもeasytechのカウンターに並ぶ顧客の方が多い光景は、小売店の将来を暗示しているようで印象深かった。
親切に対応してくださったストアマネージャー
まとめ
今回はAmazonを始めとするオンラインリテールに脅かされる中、活路を見出したアメリカのオフィスサプライチェーンStaplesを紹介した。
Staplesは、2015年2月に発表した同業種最大のライバルであるOfficeDepot社の買収、2014年6月に私達Arch for Startupが拠点を構えるシアトルに新たなマーケティングテクノロジー開発センターを開設するなど活発な動きを見せている。オンラインリテールに脅かされるStaplesが続けるダイナミックな変革に、今後も目が離せない。
■この記事に関する質問やその他リサーチの依頼などはこちらのアドレスまでご連絡を!
▼関連記事一覧
※「Arch for Startup」より寄稿
Arch for Startup
クラウドコンピューティング分野で世界一と言われるシアトルを拠点にクラウド関連やスタートアップ情報を発信。
●HPアドレス:
http://www.archforstartup.com/
●Facebookページ: