この記事は店舗運営部や、マーケティング部、商品部、店長など、お客様の店内行動の可視化に興味がある方や、導入の検討をしているが具体的な活用方法のイメージが湧いていない方に参考になれば、という思いで書かせていただきました。少しでも助力となれば嬉しく思います。
\サービスを知りたい/
\事例を知りたい/
はじめに
皆さんはこんな声を聞いた覚えはないでしょうか?
店舗担当 A さん
「先週の売上が悪かったのは、新しい商品に対するお客様の反応が良くなかったからです。」
本社商品部 Bさん
「あの商品が売れていないのは、プロモーションの仕方が悪いからだよ。ウチはマーケティングが弱いですよね。」
本社マーケティング部 Cさん
「どれだけお客さまを呼んでも、ウチの商品じゃあ売上上がらないよね。やっぱり小売は商品が全て。」
私(筆者)自身も10年ほど小売を経験しましたし、弊社のお客様でもよく聞く会話です。皆さんも少しは心当たりがあるのではないでしょうか?
どの担当者も会社として目指す方向は同じなのに、各々が見ている角度や担当業務が違うがために、他責になってしまう傾向があると思います。
では、なぜそういったことが起こるのでしょうか?
答えの一つとして「考察に至る数値が足りていないから」という理由があります。
想像してみてください。お客様が「なぜ買わなかったのか」が数値で分かる世界を。
その世界では、
売上が悪かった理由として商品の陳列方法や演出に問題があったのか
接客が出来ていないから売上が上がらないのか
そもそも商品が悪いのか
マーケティングが響いていないのか
などを全て数値で表すことができるのです。
そうすることで、皆が納得した上で会社の目指す方向に全力を注げる環境が整い、パフォーマンスの向上に繋がります。
どうでしょう、まるでおとぎ話のようだと思いませんか?
ですが、ストアアナリティクスはそんな世界に限りなく近づくためのツールです。
本日ご紹介させていただくのは、その中でも昨今更に注目度が高くなっている動線分析に焦点を合わせてお話しできればと思います。
半信半疑で構いませんので、どうぞ最後までお楽しみください。
動線分析とは
言葉の通り、お客様が店内をどのように回遊されたか、という動線を可視化する分析手法になります。
これらお客様の店内行動を分析することで、「どこ」に「何」がある時、「どの」数値に変化があるのか、または変化が無いのかが数値で評価出来るので、経験や勘に頼ることなく、正しい店舗運営が可能になります。
具体的な例を見てきましょう。
例) 果たして売れた理由は商品が良かったからなのか?
POSデータしか把握していないZ社の事例
結果 Aという商品を①という場所で販売したら、Bという商品を①で販売した時より販売数が10%向上した
考察 AよりBの方がよく売れる商品だ
この考察は一見正しそうですが、大事な点を見落としています。 それは、
Aが売れた理由は商品が良かったからなのか
客数がそもそも多かったのか
それとも演出効果が高かったからなのか
という点がPOSデータだけだと判断出来ない点です。 もし動線分析があれば、「立ち止まり率」という数値で表せるので、AとBのそれらを比較することで、売上が高かった理由が分かります。
立ち止まり率とは、通過したお客様の内、何%の方が棚の前で止まったかという比率です。
例えば、立ち止まり率がBの方が高くても、買上につながっていない場合があったとします。
上の例を分解して考えるとどうなるでしょうか?
思考プロセス①
仮説としては、お客様はBの方が惹かれやすい(アテンションを引く力は強い)ので、棚の前で止まるお客様は多い(=立ち止まり率が高い)。
思考プロセス②
立ち止まり率が高い、すなわち商品に興味を持ってくれるお客様は多いが、なぜか結果としてお買い上げまでには繋がっていないのか。
思考プロセス③
Bという商品にはお客様が寄り付いてくれるパワーがあることに確証は持てたが、そこから購入に至ってもらうために、最後に商品の魅力をプッシュする施策として、どういうことが考えられるのか。
思考プロセス④
案として、
その商品を見ているお客様には接客を必ずするオペレーションを組む
商品の細かい説明が明記されたPOPを作成する
などが考えられるので、これを実行する。
そこまで試行錯誤した上で買上に至らない場合は、やはり商品が問題(容量や味やデザインなど)という論理的な結論を導き出せるので、皆が納得して次のアクションを打つことができます。
この一連の思考で重要となるのは、問題点の切り分けです。
どこからどこまでは良くて、どこからどこが悪いのかという風に考えることで、改善点を絞り、素早く効果的な改善ができるようになります。
動線分析で分かる数値
先ほどの例は、「立ち止まり率」に焦点を合わせましたが、他にどのような数値があるのか、代表的な指標を見ていきましょう。色々な数値があると分析の切り口が増えて、新しい示唆が出ることに繋がりやすいのでワクワクしますよね。
棚前通行人数
どれだけのお客様が棚の前を通過したのか、という数値になります。
この数値は言い換えれば、来客されたお客様がその棚まで到達したのか、という言葉に置き換えることが出来ます。
数式にすると、
棚前通行人数 ÷ 入店客数 = 到達率
と表せて、入店された何割のお客様がその棚の前までたどり着いたのか(または、たどり着いていなかったのか)、ということが分かります。弊社のお客様では「到達率」と表したり、「回遊率」と呼んだりしております。
個人的には到達率の方が、考察する時にしっくりくるのでオススメです。
棚前立ち止まり率
言葉通り、棚の前にどれだけの人が立ち止まったのか、という数値になります。
そして、先ほどの棚前通行人数で割り、立ち止まり率を算出することができます。
棚立ち止まり人数 ÷ 棚前通行人数 = 立ち止まり率
(棚の前を通過した人数の内、どれだけの人が立ち止まったのか)
立ち止まり率が悪いということは、その棚の前はお客様が通過しているが「素通りされた」という解釈が可能になります。
立ち止まり時間
どれだけの時間、その棚の前で止まっていたのか、という数値になります。
このデータがあるとお客様がその棚にどれだけ興味があるのかがわかります。つまりお店側からすると、どれだけ魅力的な棚の演出が出来たのかを示す、大事な評価指標のひとつです。
各数値の考え方(まとめ)
到達率から分かること
お客様が入店した際に、特定の棚の視認性やその棚への通路が確保されているかどうか。
立ち止まり時間から分かること
一瞬でもアテンション(興味)を引くことが出来て、立ち止まらせることが出来たお客様に、更に興味を持ってもらうために必要十分な情報を与えられているのか否か。
買上率から分かること
上記の数値も踏まえ、それが買上に繋がっているのか否かをデータで見ることで、他部署同士(例えば商品部とマーケティング部)でも論理立てたディスカッションが可能になります。 例えば、「お客様が来ていないから買われていない」または「お客様は来ているが買われていない」のどちらかでも、施策は大きく変わります。
ポイント
「比率」で考えるクセをつけるのはオススメです。
棚のパフォーマンスを考える時には「何人」という実数も大切ですが「比率」に変換した方が比較がしやすくなるメリットがあります。
(例)
今週の棚前通行量●●人 vs 先週の棚前通行量●●人
●●の部分はその週の客数によって影響されてしまい、良かったのか悪かったのか分からなくなるので、「パフォーマンス」を考える時には、
今週の到達率 ●●% vs 先週の到達率 ●●%
の様に比率で見る方が打ち手に対する評価がより明確になります。
常にファネルで考えて、離脱を分析する
今までの考察の流れで私が意識している大事なことに気づきましたでしょうか?
それは「ファネルで考える」ということです。
お客様がリアル店舗で購入するまでの流れを表したのが、上の図になります。
皆さんにとっては、言われるまでもないことかもしれませんが、各お客様の工程(アクション)をファネルで捉えることで、どこに問題があったのか可視化する事ができます。
その問題があった、という現象をリアル店舗での「離脱」と考えると、分析がしやすくなります。
ファネルを順にご説明します。 皆さんは、お客様がリアル店舗でAという商品をお買上するためには、必須条件はなんだと思いますか?
正解は、その商品の棚の前に立つ事です。
当たり前のことですが、これは絶対条件となります。
お客様は、
その商品の前まで行って
その商品を手で取って
レジに持って行く
という行為以外では、Aという商品は「買えない」のです。
ということは、お買上に必須な条件は、「棚の前に立つ」というアクションになります。
では「棚の前に立つ」というアクションをクリアするために何が必要でしょうか?
そうです。来店してから「棚の前まで到達」する必要があります。
なぜなら、Aの棚の前まで近づかないと、お客様はAの棚の前で立ち止まれないからです。
ここまで言えばお分かりになるかと思いますが、Aの棚に到達するためには、入店する必要があり、入店するためには、お店の前を歩く必要があります。
この絶対的に必要なアクションを踏んだか、踏んでいないのか、というのを水を上から流すかのように考える考察の手段を「ファネル分析」と呼んでいます。
大事な思考のポイントは、常に数字の大きい所から小さい方へ考えていくクセをつけることです。
それはなぜか?
水は常に上から下へ流れるので、上から入ってくる水が多くなればなるほど改善時のインパクトが上がるからです。
もし局地的に下の方を改善しても、そもそもの水の量が変わらなければいつかは尻すぼみになってしまいます。
例えば、到達率をどれだけ改善しても、客数が増えることはないのです。
反対に入店客数が改善されれば、その後、棚前通行人数が増える可能性が上がり、更に立ち止まり客数が増え、そしてその改善が他の多くの棚でも可能になれば、買上率という最後の数値にどんどんインパクトが降りていきます
まず可能な限り上段の水の量を増やす。その意識が仮説を考える上で根本的な鍵になるので、覚えておいていただけると幸いです。 そして図のように、「離脱」という言葉を用いて、お客様の流れが、どこで滞っているのかを、「離脱した理由」は何だったのか、という形で問いかけることで、更に思考が滑らかに加速していきます。
「どこ」で離脱が多かったのか、「なに」の影響で離脱の理由に繋がっていて、それは「なぜ」そういう結果になっていて、「どう」すれば改善できるのか、ということをPDCAを回しながら最適解を導き出す。
これが動線分析、そして小売業の一番楽しい部分だと個人的には思っています。
この一番楽しいことを、数値があることで飛躍的に思考を深めたり広げたり出来るのが、ストアアナリティクスなのです。
応用編
ここまでのお話で「動線分析とは?」ということついての解像度が少しでも上がるお力添えは出来ておりますでしょうか?
もしさっぱり分からなかった、という方がいらっしゃたらいつでもこちらまで、お問い合わせください。一つずつご説明させていただきますので、お気軽にご連絡いただけますと幸いです!
さて次は、マトリックス化することで、「示唆」と「改善案」がセットで分かる手法についてお伝えしたいと思います。
まずは「到達率」と「立ち止まり率」について整理してみます。
上の図は、棚別の「到達率」と「立ち止まり率」をプロットし四つの象限に分けて考えています。
右上:花形
こちらに位置する棚は、到達率が高くて、立ち止まり率も高い「スター選手」になります。 言い換えれば、場所良し・コンテンツ良し、です。
左上:金のなる木
こちらに位置する棚は、到達率は低いが、立ち止まり率が高い、もったいない(ポテンシャルを秘めた)、選手になります。 言い換えれば、場所はイマイチだがコンテンツは良し、です
右下:問題児
こちらに位置する棚は、到達率は高いが、立ち止まり率が低い、レギュラー落ち間近の選手になります。 言い換えれば、場所は良しだがコンテンツはイマイチ、です
左下:改善必須
こちらに位置する棚は、到達率は低くて、立ち止まり率も低い、補欠落ち間近の選手です
言い換えれば、場所もコンテンツもイマイチ、です
ここまで整理した上で、どこからメスをいれていけば良いのでしょうか? それは、「問題児」と「金のなる木」を入れ替え良い場所で良いコンテンツを売ることです。
もちろんリアル店舗では、棚を入れ替えるというのは一部でそんなに簡単なことではありません。
リソース・棚や商品の形状・関連・スペースなどですが、どこの棚の「位置」は良いのか、どこの棚の「商品」は良いのか、という点が分かるだけでも打ち手が浮かんできそうな気がしませんか?
この様に、4つの事象で捉えることで、「示唆 (どこが良くて、どこが悪いのか)」と「改善案 (何と何を入れ替える)」が分かる手法をご紹介させていただきました。
とはいえ、一にも二にもまずは客数
長らくお付き合いいただきまして、ありがとうございました。 今回、この記事を書くに当たり、一番熱を入れたパートはどこだったと思いますでしょうか? それは、
ストアアナリティクスが経営判断に必須な手法であるかを理解していただけるのか
常にファネルで考える事の大切さ
この2点になります。
2つ目の「ファネル分析」という点で客数は不可欠な存在なので、まずは客数だけでも計測し次のステップとして動線分析をするというのも一つの選択肢です。
もし、なぜ不可欠なのか、という点が今一つ掴みきれないという方はいつでもこちらまでお問い合わせください。
https://abejainc.com/insight-retail/contact/general